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Alive in my heart (6) 

「クライドさん…貴方…あまり良い噂を聞かないわよ」
深夜、野営テントから離れて、衛生テントの裏でタバコを吸っていた私に後ろから声をかけてきた女性がいた。久しぶりに聞いた声…ここに来た頃を思い出す嫌な声だ。
「ほっといてくれボニー…君には関係の無い話だ…」
後ろを振り向かずに、私は星をボーっと眺めながら返事を返す。私の名前を知っていて、尚且つこんなことを話しかけてくるのは彼女しかいない。
「レイモンドさんが亡くなってから…貴方…変わったわよ」
「私にアイツの話をするな…もう忘れたいんだ…」
私はタバコを口に咥えたまま振り返る。相変わらず天使のような白衣の白い姿が、今では少し憎たらしい。その表情はすこし憂いを秘めた表情で、宝石を散りばめたように透き通るような赤い瞳が私を見ている。ああ、間違いなくボニーだ。まるで吸い込まれそうな美しい瞳に私は彼女の眼を直視することができなかった。
「いや…すまない…」
気がつけば謝っていた。彼女の眼を見ることが出来ない私は、地面に眼を向ける。月明かりに照らされた足元は薄く淡い白で輝く。彼女は無言で私のそばに近づき隣に立った。瞬間、心臓が高鳴る。やはり彼女は美しい。彼女の透き通る様な金髪と、端整な横顔が月明かりに照らされ、とても美しい。しかし月の光の加減のせいか、彼女が少し悲しそうな表情をしていたように見えた。
「私ね…」
そっと唇は動き、彼女は呟く。
「レイモンドさんに告白されてたの…」
「…えっ…」
タバコが口元からこぼれた。小さな落下音が足元で鳴る。灯火がひとつ、足元で輝く。タバコを落としたと気付いた刹那、地面に反射的に前屈みになり、手をのばしそうになったが…タバコは取らなかった。そしてその時同時に理解もした。ボニーほどの美貌がある女性なら私以外にも好意を抱く者がいてもおかしくはない事に。
「…そうか…それは初耳だったよ」
前屈みになった体勢を戻し、私は両手を軍服のポケットに捻じ込みそう言った。
「君達は…付き合っていたのかい?」
言ってから、私も随分常識の無いことを聞いたと思った。恋人が死んだのなら、そんなことを聞くべきではないとわかっていたのに…自分でも理解していないところで動揺していたようだ。心音が大きく高鳴る。
「……」
彼女は首を横に振った。
「いいえ…お付き合いはしなかったわ…」
彼女は少しだけ優しい顔をしながら私を見てそう言った。彼女の赤い瞳が、夜空の星を集めたように輝いている。ボニーの瞳は潤んでいた。
「私…ね…好きな人がいるのよ…」
途切れ途切れに彼女は私に呟く
「それでね断ったの…でも…あの人に申し訳…なくて…それなのに…あの人…笑って…話を聞いてくれてありが…とうって…」
ああ、やはりレイモンドは思った通りの奴だった。人の気持ちを大事に出来る、そんな素晴らしい奴だった。
「ねぇ…どうして…あんなに良い人ばかり…戦争なんかで死んでいっちゃうのかな…ねぇ…」
俯いて泣き出したボニーに、私はポケットの中で拳を握り締め、月を見上げた。いつもと変わらずに夜空に張り付く月は、きっと私が死ぬまでに落ちてくることはないだろう。いつも空でひとりぼっちなのだ。
「泣くな…ボニー…」
泣き止む筈がないとわかっていても、私にはそれしか言う事が出来なかった。いや、本当にそうだろうか。私は何も出来ない愚か者なのだろうか。泣く人の一人も救えない非力な人間なのだろうか。いや…私にも何かできるはずだ。ああ、レイモンド。私はお前の戦友として恥じない事をする。お前の好きだった女性…そして私の好きな女性の為に、私は今、私の出来る事をする。
「行こう、ボニー。」
居ても立ってもいられない、私はボニーの右手を掴み走り出した。
「え…っ…」
泣きじゃくる彼女を引っ張って、私は走る。まずは目指す先は私のベースキャンプだ。ボニーは涙を薄く流しながら、私の突然の行為に戸惑っていたが、脚を止めたり抵抗するような素振りは見せなかった。
「ボニー、私についてきてくれ」
「え…どこに行くの…?」
走りながら私は何度も振り返り、彼女に呼びかける。ボニーは涙を左手で拭った後、私の眼を見る。もう私は逃げない、私は一度足を止めて彼女の輝いた赤い瞳を正面から見つめた。
「頼む…今だけ黙って私についてきてくれないか」
少しだけ戸惑ったの表情をしたボニーは、私の目を見た後、大きく頷いてくれた。
「…ありがとう。」
私は彼女にそう言った後、彼女の手をひいて走り出す。固く繋いだ手を離さないように、壊してしまわないように優しく強く、握り締めて。


 

テーマ: 自作連載小説

ジャンル: 小説・文学

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